2016 年 8 巻 2 号 p. 148-160
本稿の目的は,日本のソフトウェア開発の中・下流工程におけるIT労働者の自律性の性質を考察することにある。ここでの自律性とは,開発プロセスの決定におけるそれを対象としている。 ソフトウェア開発においては,担当する工程や生産する製品によって,IT労働者に求められる技能は大きく異なり,それゆえ,労働者が有する自律性の性質も異なる。 したがって,本稿は,自律性の実質的差異を明確にするために,中・下流工程を担う労働者はどれほど自律性を有するのか,また,そこで発揮される自律性とは,どのような性質をもつのか,を明らかにした。 一般的には,下流工程へと進むほど,開発プロセスに関する決定権は制限されると考えられるが,実際には,労働者自身が開発プロセスを決定していた。ただし,そこでの自律性には,技能の保有の有無によって,「形式的」,あるいは「実質的」といった2つの側面が観察された。