抄録
先行研究において発見された高達成度プロジェクトマネジャーの行動特性や思考特性を人材育成に活用するため,大規模で複雑なプロジェクトの担当が期待される若手マネジャーを対象としたケースメソッドを設計した.このメソッドの主たる特徴は,実務上の高達成度と中達成度プロジェクトマネジャーの行為や判断を反映させた2名のペルソナを用いることである.どちらのペルソナもITSS上は高水準(レベル6)とする.2名のペルソナを用いることにより,比較的経験の浅い参加者間では議論が発散する,あるいは特定の意見に偏るという事態を避け,各ペルソナのケースへの反応を参加者らが擬似観察しながら各々の利点や欠点を分析し議論することができる.議論後には獲得した学びを参加者自身の実践に関連づける省察と共有を行わせる.最後に両者の違いに関する研究成果を解説する.このメソッドは,参加者らに異なるマネジメントスタイルとの出会いを経験させ,各スタイルの実践上の意味を生成的に議論させることにより,参加者らが自らのスタイルを省察的に自覚し,その拡張的変容を自ら導き出す変容的学習を目的とする.