抄録
ソフトウェア開発プロジェクトでは,要件定義へのユーザの消極的な参画やユーザ・ベンダ間のコミュニケーション不足により,要件の変更・追加などが下流工程で発生し,コスト超過や納期遅延につながるケースが多い.そのため,要件定義におけるユーザとベンダの合意形成の手法や合意形成過程の分析・評価の重要性が今日広く認識されてきている.本研究は,要件定義におけるユーザ・ベンダ間のコミュニケーションデータを定量化し分析することによって,要件に関するリスクや下流工程での品質を予測することを目的とする.ユーザやベンダのプロジェクトマネージャが予測に基づいて早期に要件関連の問題発生を防止する対策をとることにより,プロジェクト失敗のリスクの低減が期待できる.本稿では,ある顧客管理システム開発プロジェクトの要件定義でのレビュー議事録からユーザとベンダの発言をそれぞれ抽出し,内容を分類・定量化し,カスタマーテスト以降の不具合票と照合することで,コミュニケーションと品質の関連を明らかにする.さらにこの結果に基づいて,開発現場での分析活用方法を示す.