抄録
国家プロジェクトは,顧客である国民の価値の実現に向けた活動である.大規模で複雑なシステムを国家プロジェクトとして実現する際には,実施に責任を持つ公的機関と企業がそれぞれの役割を担いつつ協働する構造が特徴的である.これを国民の価値を実現するための価値連鎖における技術開発活動という視点で捉えると,活動のどこかで価値の連鎖が阻害されることが国家プロジェクトの失敗の背景要因につながるという見方ができる.本研究では,価値の連鎖を阻害するリスク要因及びその背景を可視化する方法を提案するとともに,具体的事例として宇宙開発についての適用結果を示す.その際,日本の製品開発システムの先行研究からの知見に着目するとともに,システムズエンジニアリングを典型とした文書を中心とした欧米的な技術開発マネジメントスタイルが日本の高コンテクスト文化に定着しにくい可能性に着目し,わが国における価値連鎖とコミュニケーションを重視した国家プロジェクトの技術マネジメントの方向性について述べる.