ワクチンによる予防接種は効果的な治療薬のない感染症の予防に有効である。そのため多剤耐性化が進んだ細菌においてワクチンの開発や実用化が進められている。本稿ではグラム陽性菌で、すでにワクチンが実用化され普及が進んでいる肺炎球菌と、まだ実用化を見ない黄色ブドウ球菌に焦点を当て、ワクチンの現状や課題を洗い出し、新規ワクチン開発に向けた展望を概説する。肺炎球菌は実用化された莢膜多糖体ワクチンによっていったん制圧されたかに見えたが、細菌が血清型交代現象を起こすことで、ワクチンに含まれない血清型の菌による発症が増加している。黄色ブドウ球菌では多種多様な病原因子の存在が、ワクチン開発そのものを難しくしている。このような現状を打開するために、双方の菌ともに様々な病原因子について分子レベルでの解析が進められ、新規ワクチンの候補となっている。