2020 年 11 巻 1 号 p. 11_29-11_33
屈筋腱腱鞘炎は中手指節間関節部で手指屈筋腱に対する滑膜性腱鞘の相対的な狭小化が起こり,手指屈伸運動で弾発現象が生じる疾患である。本症例は70歳代女性の専業主婦であり,誘因なく左中指屈伸運動時に弾発現象が生じていたが,注射や装具療法,そして手術を希望しなかったために運動療法開始となった。評価より深指屈筋腱の弓づる形成の増大が示唆され,超音波画像診断装置による所見ではA1 pulleyに浮腫がみられ,肥厚した中指屈筋腱との間に線維の乱れが生じていた。そのため,中指屈曲運動後半に浅指屈筋腱を十分に近位滑走できずに浅指屈筋腱腱裂孔で深指屈筋腱を受容できなくなり,A1 pulley と浅指屈筋腱との間の生じた局所的な摩擦が弾発現象の原因になったと推察した。深指屈筋に対する運動療法と摩擦によって生じた損傷に対する絆創膏での関節固定により,家事動作を制限することなく患部の安静を保てたことで弾発現象の消失に至ったと考える。