本研究は,調査報道の困難さを乗り越え,推進していくための新聞社のデスクの役割について,ニュース制作過程を通じて検証する。その分析対象には,調査報道の決定的な事例として2004年度に新聞協会賞を受賞した北海道新聞社「北海道警裏金問題」報道を取り上げた。調査報道は一般的な報道に比べて記事化の不確実性が高く,リスクもコストも高いと言われる報道形態である。その中で調査報道の成立には,デスクが重要な役割を果たすとの指摘がある。しかし,ニュース制作過程研究において,調査報道におけるデスクの役割はほとんど実証的に明らかにされていない。そのため,デスクによる記者や上司らへの働きかけなどについて,本事例を担当したデスクと記者に半構造化インタビューを行った。
調査の結果,デスクは調査報道のニュース制作過程において,取材のビジョンと目標を熟考し,明確化した上で取材班を結成するといった取材に向けての戦略を入念に立てていた。記者らに対しては取材活動の自律性を確保したり,鼓舞したりする取材に対する支援行動が見られた。また上司らに対しては社内で議論の場を積極的に設け,説明責任を果たしていた。これらの行動は先行研究において描かれていない行動であり,調査報道においてニュース制作を推進していく上で重要なデスクの役割である可能性が示唆された。