本研究は放送トーク研究を理論的視座におき,コミュニティ放送の番組における被災者の語りについて,いかに語り手であるゲストと聞き手であるパーソナリティが相互に関係しながら被災や復興の語りを生成しているのかを明らかにすることを目的とする。2013年10月から2020年3月まで放送されたFMいわきの復興番組『ラジオのまなざし』を対象に,ゲストとパーソナリティのトークを会話分析した。その結果,(1)ゲストとパーソナリティの相互行為において,現在/未来に関する発話と,震災の記憶の発話では構造的現象に差異があること,(2)ゲストとパーソナリティの両者が主体的な関わりを維持しながら会話していること,そして(3)近接性をもつ地元のリスナーの存在はパーソナリティの発話に影響与える,という3つの特徴が明らかになった。本研究は,コミュニティ放送を通して災害を語ることは,被災した地域の人たちが安心して語れる環境にあることを前提に,同じ被災経験をもつパーソナリティとの相互行為を通して,被災や復興の経験,複雑な想いや感情を,その時その場で共に紡いでいく行為であり,それを一つの物語として同じ体験や感情をもつ地元のリスナーと共有していくという,もう一つの行為であり,被災地のコミュニティ放送だからこそ,この二つの行為が実践されているという知見を示した。