社会情報学
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11 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 尾室 拓史
    2022 年 11 巻 2 号 p. 1-14
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/03/11
    ジャーナル フリー

    スマートフォンの普及を背景に,スウェーデンやデンマーク,アメリカといった国々において,個人間送金のための共通スマートフォンアプリ(個人間送金アプリ)が多くの人によって利用されるようになった。個人間送金アプリは,割り勘やチケット代の支払いのように,これまで現金で物理的に行っていた金銭の授受を情報化するサービスであり,情報化された金銭の授受は,今後様々な用途に利用されていくことが考えられる。

    しかしながら,スウェーデンやデンマークにおいて国民の80%以上が個人間送金アプリを利用していることを踏まえると,日本において個人間送金アプリが大きく普及しているとは言い難く,同様の状況は,イギリスやフランスといった国においても見られる。日本においては,50代以下を中心にすでにほとんどの人がスマートフォンを保有しており,複数の企業が個人間送金アプリを提供していることを踏まえると,たとえスマートフォンを保有していても個人間送金アプリに対する利用意向を示さない人が一定数いることが考えられる。

    これらの状況を踏まえ,本稿は,個人間送金アプリの利用意向と個人特性との関係について検討したものである。検討の結果,簡単さを求める人や盗難被害に対する不安がある人,スマートフォンのセキュリティを気にする人ほど利用意向を示す傾向があることが分かった。また,女性のみせっかちな人ほど利用意向を示さない等,男女で異なる傾向が見られることも分かった。

  • ―グローバルな普及加速期の特定―
    山崎 大輔, 篠﨑 彰彦
    2022 年 11 巻 2 号 p. 15-28
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/03/11
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,携帯電話のグローバルな普及がいつから加速したかを構造変化点分析の手法で明らかにすることである。携帯電話に象徴される情報通信技術(ICT)のグローバルな普及とそれに伴う経済効果については,既に多くの先行研究で行われているが,各国別にいつから普及が加速し始めたのか,その厳密な時期は必ずしも明らかではない。そこで本稿では,1990年代以降急速に普及した携帯電話に焦点を当て,そのグローバルな普及が何年頃から加速したかを厳密に特定すべく,世界178カ国・地域を対象に構造変化点分析を行った。具体的には,先進国,ASEAN,移行経済圏,BRICS,アフリカ諸国,その他の6グループに分類し,RogersのSカーブに基づくデータ観察を行った後,構造変化点分析の手法により,携帯電話の普及加速時点を特定化した。その結果,1997年前後に加速した先進各国に続き,BRICS,移行経済圏,ASEAN,アフリカ諸国が2002年から2004年にかけて構造変化点を迎えたことが明らかとなった。これはRogersのSカーブに基づくearlyadoptersからearly majorityへと移り変わる時期の観察ともほぼ一致している。この分析結果は,ICTの普及に伴うグローバルな経済効果について,時期区分を明確にした上で,詳細に分析する際の一助になると考えられる。

  • 記虎 優子
    2022 年 11 巻 2 号 p. 29-45
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/03/11
    ジャーナル フリー

    日本を含む各国においてすでに導入されている内部統制規制は,アウトプットとしての財務報告だけでなくそのプロセスまでもが重要であるとみて制度的な対応を図るものである。それゆえ,財務報告に内部統制がどのような影響を与えているのかを解明することは,重要なリサーチ・クエスチョンである。適時の財務報告を促進するには,財務報告の適時性に相乗的に影響を及ぼす要因を解明することが有益である。なぜなら,両方の要因が揃うと財務報告の適時性を決定付ける度合いが相対的に大きくなるという点で,こうした要因の重要性が高いからである。本稿では,財務報告の中でも速報性が重視される決算発表に着目して,決算発表の適時性に相乗的に影響を及ぼす内部統制システムに係る企業特性を解明している。検証にあたっては,先行研究を踏まえて,かかる企業特性として内部統制システムの構築に際する企業の積極性と財務報告志向の間の交互作用効果に注目している。

    検証の結果,これら2つの企業特性が決算発表の適時性に相乗的に寄与することを実証的に示している。さらに,これら2つの企業特性が決算期末後45日超や50日超といった適時ではない決算発表を回避することに相乗的に寄与する一方で,逆に決算期末後45日以内や30日以内といった実務上適当もしくはより望ましいとされるような適時の決算発表を行うことに相乗的に寄与することも明らかにしている。

  • 金山 智子
    2022 年 11 巻 2 号 p. 47-62
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/03/11
    ジャーナル フリー

    本研究は放送トーク研究を理論的視座におき,コミュニティ放送の番組における被災者の語りについて,いかに語り手であるゲストと聞き手であるパーソナリティが相互に関係しながら被災や復興の語りを生成しているのかを明らかにすることを目的とする。2013年10月から2020年3月まで放送されたFMいわきの復興番組『ラジオのまなざし』を対象に,ゲストとパーソナリティのトークを会話分析した。その結果,(1)ゲストとパーソナリティの相互行為において,現在/未来に関する発話と,震災の記憶の発話では構造的現象に差異があること,(2)ゲストとパーソナリティの両者が主体的な関わりを維持しながら会話していること,そして(3)近接性をもつ地元のリスナーの存在はパーソナリティの発話に影響与える,という3つの特徴が明らかになった。本研究は,コミュニティ放送を通して災害を語ることは,被災した地域の人たちが安心して語れる環境にあることを前提に,同じ被災経験をもつパーソナリティとの相互行為を通して,被災や復興の経験,複雑な想いや感情を,その時その場で共に紡いでいく行為であり,それを一つの物語として同じ体験や感情をもつ地元のリスナーと共有していくという,もう一つの行為であり,被災地のコミュニティ放送だからこそ,この二つの行為が実践されているという知見を示した。

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