2024 年 13 巻 2 号 p. 19-30
ゲームの功罪をめぐっては,大きく分けて二つの対立する立場がある。ゲーム依存に注目しその予防や治療を目指す立場がある一方,ゲームを様々な分野に活用することを目指す立場がある。いずれにせよ,ゲームが何らかの魅力を備え,人間を没入させる力を持っていることは明らかである。
本論では,ゲームの没入感に注目し,まず,ゲーム没入感尺度(Game Engagement Questionnaire, 略してGEQ)を基盤とした心理学におけるゲーム没入感の定義と,チクセントミハイが提唱する「フロー」の定義とその発生する条件を概観する。フローに注目するのは,この概念が没入感の一要素であるだけでなく,ゲームと高い親和性を持っており,とりわけゲームの活用(すなわちゲーミフィケーション)へと接続しうる可能性を持っているからである。次に,フローについて哲学的側面から分析し,心身二元論の立場から見た場合のフローと心身との関係を明らかにする。そのうえで,ポジティブな概念であるフローと(依存から近いところにあるという意味で)ネガティブな概念である同化との差異を明確化し,ゲーミフィケーションにどのような要素が生かされるのかについて考察していく。その過程で出発点となったGEQそれ自体が再検討される。最終的に,GEQの質問票の問題点を明らかにし,新たな尺度を作成するための方向性が示されるであろう。