社会情報学
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原著論文
アメリカ公共放送史におけるFrieda Hennockの思想的遺産
志柿 浩一郎
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2016 年 5 巻 2 号 p. 19-36

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抄録

アメリカ公共放送の起源は, 1910年代に開始された大学のラジオ通信施設に遡る。この施設は, やがて教育放送局と呼ばれるようになる。1930年代, 教育放送局は, 1920年代以降に台頭した商業放送の影に隠れてしまうが, 第二次世界大戦後, 再び注目され, この教育放送局を基盤とした公共放送設立に向けた動きが高まった。その過程で要としての役割を果たしたのがFrieda Hennockである。

彼女は1948年に女性として初めてアメリカ放送通信事業の規制監督独立政府機関, FCCの委員に任命された。FCC委員在任中, 彼女は男性中心だったアメリカの放送の状況を変えようとしたことで知られている。Hennockの業績はそれだけにはとどまらない。彼女は, アメリカ社会の発展のためには, 異質なものに寛容な新しいメディアを創出する必要があると考えた。しかし, その実現には当時の商業放送では限界があり, 異質なものを受容する立場からの放送は, 大学放送局や非営利教育放送局にしかできないと考え, その開設を強く推進していった。その後のアメリカの公共放送は, 彼女が力説した教育放送の重要性を確認する方向で展開した。

このようにアメリカ放送史上Hennockの果たした役割は大きい。しかし, アメリカにおける研究史においてその評価は十分とは言えず, また日本の研究史では言及されることさえも少ない。本稿では, HennockがFCC委員として果たした役割と彼女の思想を, FCC在任中に作成された一次資料などを参照しつつ明らかにする。

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