ファクトチェックは,2016年のアメリカ大統領選挙をきっかけに世界的に拡大しているが,党派的な偏りや人々に適切な情報を届ける難しさといった課題が指摘されている。国内では,政府がフェイクニュース対策のためファクトチェック推進を求めているが,課題に関する議論は置き去りとなっている。本研究では,2018年に行われた沖縄県知事選挙を対象に,地元新聞社が行ったファクトチェックに対するソーシャルメディアの反応を定性的に分析することで課題を明らかにする。その結果,一部のファクトチェック記事が党派的な反応を引き起こし,政党関係者により対立候補の攻撃に利用されていた。ファクトチェック記事を紹介するツイートとフェイクツイートの反応を比較したところ,党派的な分断が存在することが明らかになった。党派的な反応を引き起こす要因は,ファクトチェックの国際基準違反とファクトチェックとうわさ検証の区分の曖昧さにあった。ファクトチェックにおけるジャーナリズムの役割は,有権者に判断材料を提供することにある。その実現のためには,ファクトチェックという言葉を整理すること,確認・検証する対象を分かりやすく有権者に提示して透明性を高めること,ファクトチェックの取り組みが中立・公正であることを有権者が確認できる仕組みの導入が必要である。