社会情報学
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原著論文
ファクタと数理議論学に基づく労働判例の分析
平田 勇人新田 克己
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2021 年 9 巻 3 号 p. 1-16

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抄録

近年,同一労働に対する待遇格差が大きな社会問題となり,労働問題を分析するのに労働判例の解析が重要になっている。一般に判例を解読するには多くの時間を要する。それは判例における主張対立の論理構造が複雑なためである。判例の分析を助けるため,重要な特徴的事実(ファクタ)による判例の記述と判例間の類似性を判断する研究や判例の論理構造のダイアグラムによる記述法の提案などがあった。しかし,ファクタだけでは判例の論理構造が表現できないという問題と,複雑なダイアグラム表現を判例から抽出することは困難であるという問題があった。一方,数理議論学の分野で研究されている双極性議論フレームワーク(BAF)や拡張議論フレームワーク(EAF)は判例の構造を簡明に記述するのに適しており,論理的裏付けが明確であるという利点がある。そこでわれわれは,ファクタとBAF・EAFを組み合わせて,判例の論理構造を記述し,(1)判決に影響を及ぼすファクタの分析,(2)裁判所による争点の選択傾向の分析,(3)原告と被告の主張の対立や裁判所の判断の論理検証,という3つ観点から労働判例の分析を行った。その分析結果から,本手法が労働判例の個々の判例の論理構造を詳細に記述して検証を行えること,ファクタや争点に着目することで複数の判例からの判決の傾向分析が有効に行えることを示した。

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