抄録
カゴメ格子反強磁性体 CaCu3(OH)6Cl2•0.6H2O は、サイト無秩序の少ない理想的な S=1/2 カゴメ格子系である。我々は本物質に対して非弾性中性子散乱(INS)測定を行い、フォノン異常の存在を示唆するスペクトルの著しいブロード化を観測した。この結果をより高いエネルギー分解能と統計精度で検証するため、非弾性X線散乱(IXS)を用いたフォノン測定を実施した。その結果、INS とは対照的なシャープなフォノンスペクトルが観測された。INS 実験では複数の単結晶をコアラインしたモザイク試料を用いたため、フォノンのブロード化が生じたと考えられる。一方、単一の微小単結晶を用いた IXS 測定ではこの影響が抑えられ、本来のフォノン分散を反映したシャープなピークが得られた。実験結果を第一原理フォノン計算と比較したところ、モードのエネルギー位置は概ね一致したが、定量的な一致には改善の余地がある。特に、今回の計算では磁気秩序を考慮していないため、磁性の寄与を取り込んだ解析は今後の重要な課題である。