抄録
一般に、他者への思いやりは援助行動に結びつく可能性が高いと考えられており、社会的に望ましいとされる。援助行動は被援助者の利益のために行なわれるが、援助者自身にも影響する。援助を行なう場合、実体のない報酬として自尊心の高揚などが生じることが知られているが、これは被援助者の評価とは独立した援助者自身へのポジティブな影響と言える。援助行動が思いやりに基づいて行なわれた場合、行動の内容にかかわらず援助者によってポジティブに解釈され、援助者自身にもポジティブな影響をもたらす可能性がある。そこで本研究では、思いやりの有無が被援助者の主観的な援助行動への評価と自己概念に影響するか検討した。研究において思いやりの有無を操作するには、タスクは同じでも、より思いやりを喚起するような条件が必要である。そこで、思いやりを喚起するタスクを考案し、予備調査でその妥当性を確認した上で2つの研究を実施した。分析の結果、研究1および研究2において仮説は支持されなかった。しかし、過去にボランティア経験がある者はない者に比べて主観的ウェルビーイング、援助意図、状態自尊心などが高いことが示された。これらの結果は、ボランティア経験の有無という要因がなんらかの影響を及ぼす可能性を示唆する。本研究は、個人差特性として測定されることがほとんどであった思いやりを操作した点だけでなく、複数の点で理論的・実践的に貢献すると考えられる。