抄録
旗金具とは、旗と旗竿を紐で繋ぐための用具として用いる旗棒金具、旗に印された様々なシンボルマークが彫刻され、またそれを象った物などが竿先に取り付けられた旗頭などの総称のことである。旗金具のそれぞれの部位には金属加工技術が多用されているが、これらの技術を駆使し、旗頭を製作できる職人は現在日本では数名である。また、旗頭はその製品の性質上、形状や寸法がすべて異なるため、単品製作が基本となっている。したがって機械化による対費用効果は望めず、職人による手作業が工程の大多数を占めている。しかし、旗金具の加工工程における作業内容は職人によって異なり、かつその詳細については明らかにされていない。旗金具の製造工程において、特に多くの時間を占める作業に、紋章などをマーキングする打刻がある。打刻は、旗金具の製造工程において、シンボルマークを旗頭に描くために、金属板表面に彫り込むのではなく、金鎚と鏨の打出しによって生じる伸展による歪をうまく凹凸に利用してマークキングを行う作業である。この打刻作業は非常に難易度の高い作業であり、修得に多くの時間を費やす。本論文では彫金作業の中の一つである打刻作業時における熟練者と非熟練者の動作と眼球運動を比較することによって、熟練者の特徴を明らかにすることを目的とした。被験者には、年齢66歳、身長171 cm、体重71.5 kg、職歴50年、右利きの旗金具職人1名の熟練者と非熟練者である健康な男子大学生4名の、計5名を対象とした。結果として、打刻作業中に熟練者は手関節の尺屈・橈屈で打刻をしており、非熟練者は肘の屈曲・伸展で打刻を行っていたことが明らかになった。また、熟練者の打刻は1打目で打刻位置を決め、2打目から強く打刻をする傾向があり、3打目から連続的に打刻していたが、非熟練者には同様の傾向が見られなかった。眼球運動の特徴としては、熟練者は打刻前、打刻作業中、打刻後も鏨の下部および板の周辺を集中的に注視していた。一方、非熟練者は鏨の上部および下部を広範囲に見ていた。