2016 年 10 巻 p. 141-153
B. バーンスティンは、その言語コード論・教育コード論で知られ、階級に対応した言語使用のパターンの差異や学校知識の社会的編成が階級間の不平等をもたらすこと示したことを明らかにしたイギリスの社会学者・教育社会学者である。1980 年代以降、バーンスティンには「言説論的転回」がみられるが、その背景にはフランスの哲学者・思想家M.フーコーによる言説論の影響がある。バーンスティンは、フーコーの言説論を高く評価する一方で、その言説論における「社会的諸関係」の視点の欠如および「社会的なもの」の後景化を批判しており、両者の言説論は対置的関係にあるという見解が通説となっている。本論では「バーンスティンのフーコー批判」を再考し、両者の言説論の関係性をとらえ直す必要性を喚起する。行論からは、通説とは異なる両者の言説論における「親近性」と「差異」が明らかとなる。両者の言説論の親近性は、言説が「規則」・「原理」としてとらえられ、言説編成が「認識論的」かつ「社会的に」になされるものとして概念化されている点である。一方、その差異は、バーンスティンの言説論における「社会的事実としての言説」の視点と「主体化」をめぐる議論の欠如である。フーコーとバーンスティンの言説論における親近性と差異をめぐる知見は、「言説」概念の社会学的再定位を可能にすると同時に、言説分析に不可欠な道具立てについて示唆を与え、「社会-認識論的言説分析」という言説分析のひとつの方向性への道標となる。