現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
機能分化社会におけるリスク、信頼、不安
徳安 彰
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 10 巻 p. 68-75

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抄録
本稿は、福島原子力第一発電所の事故のような社会全体に影響のおよぶリスク問題を題材にして、ルーマンの社会システム理論に依拠して問題の構図を記述し、科学技術とリスク・アセスメントの関係、リスク・アセスメントへの非専門家の参加について論じる。現代社会における複雑性の増大は、機能分化した社会構造をもたらした。複雑性の増大は、複雑性の縮減メカニズムとして象徴的に一般化されたコミュニケーション・メディアを生み出すとともに、システム信頼を生み出した。複雑性の増大は、可能な選択肢を増大させ、選択の自由/選択の強制をもたらすとともに、選択の結果として損害が生じうる状況つまりリスクを生み出した。さらに複雑性の増大は、不安の増大と緩和の要求を生み出した。科学技術のリスク・アセスメントは、科学システムにおける専門知識を駆使して行われるが、科学的知識には本質的な不定性があるから、つねに厳密で頑健なリスク評価ができるとはかぎらない。他方で、科学技術の採用や規制の政策決定は、政治システムの問題である。政治システムそのものは、科学的な真/非真を判断できないから、科学システムの結論を導入しながら、集合的意思決定を行わなければならない。民主主義的な手続きと科学や政治に対する信頼を重視すれば、リスク・アセスメントや政策決定には非専門家の参加が不可欠だが、それは非専門家自身が意思決定者としてリスクをとることを意味する。
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© 2016 日本社会学理論学会
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