2020 年 14 巻 p. 19-30
本稿は「ポスト多文化主義時代」のフランスにおいてマイノリティをめぐる状況にどのような変化が生じているのかを考察した。これまで多文化主義は、「共和主義」を国是とするフランスには馴染まない、あるいは反発を引き起こす、という観点から捉えられてきたが、実際には新たな動きも観察されている。「セクシュアル・デモクラシー」に見られるような新たな排除の論理が広がる一方で、反差別運動の内部から差別被害者だけのセーフ・スペースを求める「ノン・ミクシテ」という実践が展開されるようになった。それはマイノリティの権利擁護の運動に新たな地平を切り開くと同時に、従来のフランス型共和主義の発想と対立するものであることから、激しい批判や攻撃を引き起こしている。さらに「ノン・ミクシテ」運動やムスリム女性のスカーフ着用をめぐる「選択」の問題には、少数者が団結して抵抗するというコングリゲーションの論理と、社会が少数者ごとに隔離されていくというセグリゲーションの論理という、解釈をめぐる対立が浮かび上がっている。