現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
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社会運動研究の方法論的課題に関する一考察
「調査者一被調査者論争」が提起したもの
山本 崇記
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ジャーナル オープンアクセス

2009 年 3 巻 p. 72-85

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抄録

近年の社会運動とその研究の(再)活性化に比して、社会運動研究においてこそ問われるべき課題が十分に深められていない状況がある。その課題とは第一に、実践的問題意識を持ちながらも社会運動との緊張関係を通じて研究を練成する方法論とはどのようなものかという点である(課題①)。第二に、現実に生じている社会運動の背景にある具体的な歴史的文脈をどのように対象化するのかという点である(課題②)。これらの課題は、かつて日高六郎が社会運動研究の社会学的課題として指摘した点と重なっており、社会運動とその研究が活性化していた1970年代にこれらの課題に否応なく取り組まざるを得なかった研究史に遡及する必要性をも示している。本稿では、似田貝香門と中野卓による「調査者一被調査者論争」をその参照点として位置付ける。「論争」の過程で、似田貝が活動者の「総括」という行為に「調査モノグラフ」を通じて参与する「共同行為」を研究者の主体性確立の条件としたことを、課題①を深めた議論と評価する。また、中野のライフヒストリー研究を、集団ではなく個人生活史を通じて社会を捉え返すことで課題②に応じつつその先に進んだものと評価する。それ故に逆説的にも研究と運動の担い手が固定化し、理論(研究者)/実践(活動者)及び活動者(中心)/生活者(周縁)という認識枠組が再生産され、社会運動の実態から研究が議離する危険性を抱えていったのだと論じる(課題③)。

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© 2009 日本社会学理論学会
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