現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
「ケア」と「承認」を結びつかせている仕掛け
天田 城介
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2011 年 5 巻 p. 16-29

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抄録
「ケア」とは介護の担い手と受け手のあいだでなされる行為である。介護の受け手は自らではさまざまなことができないからこそ「受け手」になるのであるからして、受け手が「介護する主体」になることは少ない。この点ではいわば徹底的に無力の存在である。そうであるがゆえに、「配慮する主体」として振る舞い、その「配慮する主体」であることによって他者が「介護する主体」「配慮する主体」であるよう積極的に働きかけるのだ。その意味では、これまでの「〈力〉をもつ主体同士の葛藤・闘争から体系に委譲することを通じて消極的な相互承認を遂行する形式へ」といった説明ではケアの場は説明できない。むしろ、自らにとっての「命綱」である「他者の介護」を自らの行為によって調達していくような相互行為が繰り広げられるのである。しかしながら、そうであるからこそ、ここに〈埋め合わせと負担の体系〉が形成されていく。受け手が四六時中「配慮する主体」となって「介護する主体」を繋ぎとめておくことはとてもしんどいのだ。だからこそ、その帰結として、〈冷たい関係〉の制度=体系へと委譲することが要請されていくのであるが、同時に、その〈冷たい関係〉のもとでは主体の〈力〉は極めて局域化・限定化されてしまうがために、またその〈冷たい関係〉のもとで供給される介護量は十分でないがために、〈熱い関係〉が同時に語られてしまうのである。こうした〈埋め合わせと負担の体系〉と〈冷たい関係と熱い関係の体系〉が多重的に構成されている中で「ケア」や「承認」は語られてしまっているのだ。そして、そもそもそうしたケアの場が圧倒的な分配の不足に規定されて形成されている以上、そこで問うべきは「自己決定がよいか悪いか」ではなく、むしろ「自己決定や承認がどのように作動してしまうか」を問うべきである。
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© 2011 日本社会学理論学会
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