現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
地域社会の再生に向けての課題と方法
八ッ場ダム問題を事例として
萩原 優騎
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2013 年 7 巻 p. 3-15

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抄録

2011年3月11日に発生した大地震と原子力発電所事故以降、これまでの社会の前提を問い直そうという動きが活発になった。その中で、地域社会の再生が今後の重要課題として提示され、現状における復興の在り方を疑問視する主張も多い。一例として、ナオミ・クラインの言う「ショック・ドクトリン」への批判がある。この批判は、災害前のコミュニティを元通りに再生することの支持に等しいのだろうか。多元性を重視し、特定の基準を一律に適用する政策を批判するからといって、以前のコミュニティが当該地域の人々にとって最適のものであったということを、必ずしも意味するわけではないはずである。
八ッ場ダム問題は、地域の多元性の在り方を考えるための事例となる。この地域では、長年の対立を通じて、住民の人間関係は悪化の一途を辿り、人々は疲弊した。その末にダムを受け入れたにもかかわらず、最近になってダム建設の中止が宣言された。それに対して、地元からは多くの反発の声が上がった。ここには、環境保護という理念と、地域の個別的事情が対立するという困難が見られる。このような場合、当事者たちの多元性を無条件に認めてよいのだろうか。意思決定過程において、人々が自らの諸前提を問い直し、現状とは異なる選択肢を創出する可能性を支えるための参照枠として、社会学をはじめとする諸理論が機能し得ることを、本稿では提示する。

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© 2013 日本社会学理論学会
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