2020 年 18 巻 p. 39-52
大災害が相次いだ日本では、防災行政の災害論が単純化し始めている。そうした動きのなかで、農林漁業という営みのあるコミュニティでは、災害のたびに様々な葛藤を抱えるようになった。この葛藤は、集落移転のような大きな問題になる場合もあれば、地元の小さな内部葛藤で終わる場合もあるが、自然災害の問題であるが故に、災害論としての原理的考察が必要である。本稿では、災害下の農林漁業をめぐって生じる葛藤を、「まさか」と「やはり」という対照的な言葉を用いて、災害論を分けることにより検討した。自然現象のリスクを徹底的に回避しようとする防災行政の「まさか」の災害論に対して、とくに農林業などが絡んでくる場合は、それとは異なるもうひとつの災害論、「やはり」の災害論が必要である。それは、この災害論が、農林漁業のレジリエンス発揮=災害リスクのコミュニティへの内部化と関わっており、そのことによって人々の生活の充実への可能性を開くからである。