音声障害を訴える歌唱者の中で慢性上咽頭炎(以下上咽頭炎)が原因と思われる症例に対して1%塩化亜鉛による上咽頭擦過療法を行い,その治療前後を比較することにより上咽頭炎と音声障害の関連性について検討した.過去1年7ヵ月間に治療前後の音声検査による評価が可能であった歌唱者53例を対象とした.内視鏡所見,自覚的評価,および最長発声持続時間における有意な改善を認めた.以上より上咽頭炎は音声障害の原因疾患の一つと考えられ,上咽頭擦過療法は上咽頭炎による音声障害に対し有効である事が示唆された.また,その病態は自律神経系に関連する喉頭潤滑障害と上咽頭の共鳴障害であると考察した.