抄録
本例は56歳女性,誘因なく突然の左上腹部痛を自覚し近医で白血球数とCRPの上昇を指摘された.CTで膵周辺に2つの嚢胞(膵尾部;13cm単房性,噴門部左後方;7cm多房性)と左側に胸水を認めた.2ヶ月後のCTで膵尾部嚢胞は変化なかったが,後腹膜多房性嚢胞は縮小し炎症反応も軽減した.また,腫瘍マーカーはCA19-9が200867U/ml と569.7U/ml の間を1ヶ月毎に大きく増減した.膵炎の可能性もあったが,CA19-9と共に一時的にCEAも240.6ng/ml と上昇し,膵尾部の大きな嚢胞には変化がないことから,膵炎を伴う膵粘液性嚢胞腺癌の可能性も考え,膵体尾部切除術を行った.病理診断では異型を示す粘液産生性の腫瘍細胞が間質浸潤をきたし,嚢胞周囲に卵巣様間質を認めることから浸潤性粘液性嚢胞腺癌であった.粘液性嚢胞腺癌でも膵管への浸潤により膵炎で発症することがあり注意が必要である.