抄録
症例は67歳の男性.膵癌にて膵体尾部切除後25ヶ月に閉塞性黄疸出現,膵頭部に第二癌の出現を認め残膵全摘術施行した.切除標本より2つの癌が検出された.すなわち本症例の膵臓より(1)初回手術の膵体部の病変,(2)groove領域の胆管浸潤を来した病変,(3)膵切除断端近くの病変の3つの癌が検出された.遺伝子学的検索を行ったところ(1)の病変ではK-ras codon 12が野生型であるのに対し(2)と(3)の病変では変異型であった.さらには(2)と(3)の病変では形態病理学的に距離を持って存在し,膵管内進展による連続性も持たなかったので2つの腫瘍は独立した異時性多発癌と診断した.初回手術,残膵切除の切除標本で,ともにintraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)は認めなかった.IPMNを伴わない浸潤性膵管癌に異時性・多発性に第二癌が発見され,切除し得た症例を経験したので報告する.