膵腺扁平上皮癌は予後不良とされるが,術後補助化学療法を施行せず5年以上生存中の特異な1例を認めたので報告する.症例は60歳男性.軽度の左下腹部痛を主訴に来院した.CA19-9(232U/ml),SPan-1(96U/ml)の上昇を認めたが,SCC抗原は正常内であった.腹部超音波検査上,膵尾部に4×3×3cm大の楕円体低エコー腫瘤を認め,辺縁は充実性で内部が嚢胞変性を示した.Dynamic CTの門脈相~遅延相で病巣辺縁充実部が軽度濃染した.MRI/MRCPで膵尾部に径2cmの嚢胞部がみられ,内部の壁在小結節と尾側主膵管の拡張を伴っていた.開腹し,リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除術を行った.病理組織学的診断は,腺扁平上皮癌(T2N0M0 Stage IB)であった.腫瘤は厚い偽被膜に包まれており,多くが中心壊死による空洞を伴う扁平上皮癌成分から成っていた.腺癌成分は腫瘤の一部と隣接膵の膵管内にあり,carcinoma in situ(CIS)成分が目立った.術後17年経過して再発徴候はなく健存である.