抄録
既往の研究より,養老川や小櫃川流域において生産されたフルボ酸は,多量な鉄を東京湾へと溶脱・輸送し,その河口沿岸の生態系の一次生産量の増加に寄与することを実証した.特に小櫃川河口域には東京湾最大級の自然干潟 “盤洲干潟” が存在し,流域圏からの化学物質に対する緩衝能や魚付き林としての生態系に重要である.本研究では,小櫃川河口の盤洲干潟後背湿地を対象にそこに繁茂するヨシ植生量とフルボ酸-鉄を含めた栄養塩との関係を明らかにすることを目的とした.
干潟の微小地形のわずかな高低差はヨシの植生量に強く反映し,それは潮位変動にともなう土壌中の含水量と塩分濃度と関係するからである.その正味生産量は年間炭素基準で170 g m-2と推算された.ヨシ植生量に従って,土壌溶液中の溶存有機炭素,おもにフルボ酸炭素,さらに溶存鉄濃度は増加した.結果として,干潟土壌中で生産されたフルボ酸-鉄錯体は近傍のクリークを通過し,海洋プランクトンの増加に寄与していることが明らかとなった.