抄録
本論文では，マルチコレクターICP-MSを用いた海水中のリチウム同位体比の簡便で正確，かつ感度のよい分析方法を報告する．まず，分離は一段階のカラム分離だけで行い，Xタイプのスキマーコーン及び低レベルに抑えたプラズマを用いることによって，精度と感度も確保した．本方法を用いて測定した標準海水（NASS-5）は，これまでの報告値とよく一致している．さらに，これまで明らかにされていない東シナ海の表層海水中のリチウム同位体比も測定した．得られた値は，外洋の値と一致しており，採取した場所が大陸からの陸水の影響を受けていないことを示唆している．また，採取した場所が黒潮の流路にあることも鑑みると，今回明らかになった値は黒潮の値を示していると考えられる．今後の水塊の移動過程や起源の研究において，こういった知見は大きな意義を持つ．
