日本海水学会誌
Online ISSN : 2185-9213
Print ISSN : 0369-4550
ISSN-L : 0369-4550
報文
アジア大陸起源の越境エアロゾルが貧栄養海域微生物に及ぼす生態学的影響の解明:太平洋沖合の海水を用いた洋上培養実験
朝日 裕也牧 輝弥石川 輝松永 智樹渡辺 幸一青木 一真堀内 周長谷川 浩岩坂 泰信
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 70 巻 1 号 p. 28-40

詳細
抄録
アジア大陸から飛来した黄砂やPM2.5といったエアロゾルは,日本海や太平洋へ沈着すると,栄養塩,微量金属及び有機物を海洋へ供給し,海洋の植物プランクトンなどの一次生産者の増殖を促進させる.そのため,エアロゾルの海洋沈着は,炭酸固定や炭素循環に少なからず影響を与えると言われている.しかし,エアロゾルが海洋沈着を介して微生物の動態に及ぼす影響は,フィールド観測やモデル解析に基づいて分析されている報告が多数を占め,エアロゾルを海水に直接添加し微生物動態を詳細に検討した報告例は少ない.そこで本研究では,2013年4月に,富山県に位置する立山の積雪層から黄砂粒子を含む積雪試料を採取し,この積雪試料を海水に添加し,エアロゾルが海洋微生物の増殖及び群集構造へ与える影響を船上での培養実験により評価した.船上培養実験は,2013年5月に,静岡県御前崎より70 km離れた遠州灘沖の貧栄養海域で実施した.積雪試料を添加した実験区では,添加直後に硝酸態窒素濃度が増加し,3 日間の培養の後,硝酸態窒素の減少に伴い,マイクロプランクトンの画分のクロロフィルα濃度の増加が観察された.細菌群集では,積雪試料を添加した実験区において,有機物分解細菌(Rhodobacterace,OM60など)に近縁な細菌グループの増殖が促進された.本研究において実施した貧栄養海域では,黄砂粒子を含む積雪試料は,硝酸態窒素を海洋へ供給し,微細藻類の増殖を促進させ,細菌群集構造を変動させることが分かった.
著者関連情報
© 2016 日本海水学会
前の記事 次の記事
feedback
Top