抄録
瀬戸内海は四方を囲まれたわが国最大の内海で, 外海とは豊後水道, 紀伊水道, 関門海峡の三海峡部のみで接する極めて閉鎖性の強い海域である. このような瀬戸内海の水圏環境は, 日本経済の高度成長に伴う産業, 人口, 都市化の集中が沿岸部を中心に著しく進行したため, 1960年代の後半頃から著しく悪化した. しかし, その後様々な環境保全施策がなされ, 今日に至っている. 本稿ではまず瀬戸内海の自然環境と社会環境の特徴を述べ, 水圏環境の歴史的推移を概観した. 次に水質と底質の現状を明らかにした上で, 瀬戸内海の環境に密接に関わる水産養殖や海砂利採取のもつ問題点を指摘した. 現在, 瀬戸内海はその環境管理のあり方をめぐって大きな転換期にさしかかっているため, 瀬戸内海の環境管理に関する新しい動きを紹介した. 瀬戸内海はその歴史的な経緯により水圏環境と水産資源管理に関する生きた実験海域の性格を持っている. 将来の研究と環境管理のあり方については, 特に瀬戸内海の持続性に関する研究の重要性と包括的環境管理の必要性について新しい考え方を提唱した.