抄録
当事者はどのようにして有害な社会構造に自ら囚われていくのか。本稿は、教育改革が進学競争を解消できない問題を検討する。著者が生徒=当事者として記録したビデオエスノグラフィーを用い、台湾のオルタナティブ学校の生徒が主流教育システムへ進学する過程を分析した。先行研究では、進学競争の要因として経済的・文化的要素が指摘されているが、これらが改善されても生徒自身が競争を維持する姿が観察され、「教育資源の配分」への依存、すなわち〈配分依存〉が明らかになった。
〈配分依存〉は、リスク回避といった動機から生じ、資源配分の〈枠〉に適合(同化)する一方、枠外の性質を排除(刈り込み)する行為を促進する。この過程は行為の内的価値を軽視し、資源獲得の手段として自己目的化し、貨幣の物神化に類似した現象を引き起こす。結果として、当事者の全人的発達が抑制される。
本研究は、〈配分依存〉が異なる時期や地域の教育分野を超え、他の社会構造にも適用可能であることを示す。この概念は、自己増殖的な社会問題を理解し対処するための学際的な枠組みを提供し、今後の研究や社会変革の可能性を示唆する。