日本原子力学会和文論文誌
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高速炉を用いた熱・電気併用による水素製造技術
中桐 俊男大滝 明星屋 泰二青砥 紀身
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2004 年 3 巻 1 号 p. 88-94

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抄録

核燃料サイクル機構(以下サイクル機構と称する)では,高速増殖炉(FBR)サイクル実用化戦略調査研究(Feasibilty Study)の中で,多目的小型FBRを用いた水素製造の可能性について検討しており,この一環として,水を原料とし,CO2を排出しない高効率の水素製造法の検討,燃料電池自動車(FCV)用水素を原子力で生産した場合の国内設備容量および電力・水素生産用原子力設備最大導入可能量の評価等が行われている。
既存の水素製造法のうち,熱化学法は地球上に無尽蔵に存在する水を原料とし,CO2を排出しないとともに,40%を超える熱利用効率が期待できるという優れた特徴を有する。このため,これまで2,000~3,000を超えるプロセスが提案され,国内外で高温ガス炉への適用が検討され,実用化に向けた研究が進展しているが,800~900℃の高い温度を必要とすることから,これまでFBRへの適用は検討されていなかった。
サイクル機構では,熱化学法の中でも高い実用性が期待できる硫酸生成・分解プロセスを組み合わせた熱電併用ハイブリッドプロセスの一種であるWestinghouseプロセスを選定し,プロセス中で最も高温を要するSO3分解反応を電気分解に置き換えてプロセス全体を低温化する方法(以下,低温熱化学法と称す)の実証を目指した調査・検討を進めている。低温熱化学法では,約500℃においてプロセス全体でも理論電解電圧が約0.5V以下と予想されることから,水を直接電気分解する場合の約1Vの1/2以下の電圧での水素製造の可能性があり,消費電気エネルギーの大幅な低減が期待できる。さらに,硫酸のみを使用することによる簡素な装置構成が実現するとともに,IS (iodine-sulfur)プロセス,sulfuric acid-bromine hybrid process等の熱化学プロセスで使用されている活性の強いヨウ素,臭素等を用いないことから,材料腐食の問題を大幅に低減可能である。安全性の面からも,水素発生を低温で行うために水素爆発の危険性を低下できる等の長所を有する。
本報は,低温熱化学法で必要とされる理論電解電圧,化学反応を基にした熱利用効率の評価,長所および今後の開発課題について検討した結果をまとめたものである。

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