日本原子力学会和文論文誌
Online ISSN : 2186-2931
Print ISSN : 1347-2879
ISSN-L : 1347-2879
高温ガス炉ガスタ-ビン発電システム動特性解析モデルConan-GTHTRの開発,(I)
HTTR試験結果を用いた検証
高松 邦吉片西 昌司中川 繁昭國富 一彦
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 3 巻 1 号 p. 76-87

詳細
抄録

日本原子力研究所(原研)では,2001年から,高温ガス炉の熱利用研究の一環として,高温ガス炉を用いた電気出力約300MWのガスタービン発電システム(GTHTR300:Gas Turbine High Temperature Reactor 300)の設計研究を行っている。これは,高温ガス炉固有の安全上の特長により,十分な安全性を確保しつつ,安全機能の簡素化等をはかり経済性の優れたプラントとすることを目指している。GTHTR300のプラント構成をFig. 1に示す。原子炉から出た約850℃の冷却材(ヘリウムガス)によりガスタービンを回転させ,これにより圧縮機と発電機を駆動する。ヘリウムガスはタービンを駆動した後,再生熱交換器と前置冷却器により温度を下げてから圧縮機により圧縮され,再度,再生熱交換器により昇温されて原子炉に戻される。このシステムはブレイトンサイクルを構成する。
GTHTR300の安全性を確保する上で,通常運転時の子炉およびタービン系機器の制御特性や,異常時の原子炉およびタービン系の挙動等,サイクル全体の動特性を評価し,安全性を確認することが不可欠であり,そのための安全解析コードの開発に着手した。
原研では,高温ガス炉用動特性解析コードとしてTHYDE-HTGRコードおよびACCORDコードの2種類をすでに開発している。THYDE-HTGRコードは,原研の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR:HighTemperature Engineering Test Reactor)の安全評価に用いられたものである。THYDE-HTGRコードは,1次冷却設備,2次ヘリウム冷却設備,加圧水冷却設備および補助冷却設備におけるヘリウムや水の熱流力挙動を解析できる。さらに配管破断等に起因する冷却材の流量や温度の変化および反応度の変化に対する原子炉の核熱挙動も解析できるコードである。しかしながら,THYDE-HTGRコードは,温度応答特性に多大な影響を与える炉心および冷却系機器の熱容量を十分にはモデル化していないため,事象発生後数千秒までの挙動のみしか解析できない。
一方,ACCORDコードは炉心の熱容量をモデル化し,事象発生後数千秒を超えるプラントシステムの挙動を解析するために開発された。ACCORDコードは,機器の伝熱計算,ヘリウム系,加圧水系の流動計算を独立して行えるようにすることで,機器毎の伝熱流動特性について解析できる。しかしながら,ACCORDコードの流動計算で用いた基礎式は,定常・非圧縮性のベルヌーイの定理を用いており,減圧事故のようにヘリウムの圧縮性を考慮しなければならない過渡事象解析を行うことができない。
そこで,GTHTR300の設計研究の一環として,高温ガス炉システム全体の動特性を解析するためのコード“Code for Numerical Analysis of GTHTR (Conan-GTHTR)”の開発を行った。
Conan-GTHTRコードは,主に米国で軽水炉の安全解析用として用いられているRELAP5/MOD3コードを基に開発を行った。RELAP5/MOD3コードの使用および改造については,RELAPコードの開発者の了解を得ている。Conan-GTHTRコードの特長の一つに,RELAPコードに含まれていない高温ガス炉の発電系のモデル,すなわち,タービンおよび圧縮機のターボ機器モデルがある。基礎式については,ターボ機器の入口/出口のヘリウムガスの状態変化式およびエネルギー変化式,ターボ機器による仕事の式,軸トルクと回転数の関係式,質量流量と膨張および圧縮比の関係式をプログラムに組込んだ。高温ガス炉特有のヘリウムおよび黒鉛等の物性値は新たに追加した。これらの改造に加え,コードの利便性を考え,高温ガス炉の熱伝達相関式を入力データ形式で与え,それを壁面熱伝達率として使用できるようプログラムを改造した。さらに,コードの原子炉系の部分について,日本で唯一の高温ガス炉HTTRにおける運転・試験の結果を用いて,コードの検証を行った。また,発電系については,発電系機器全体の動特性を調べるための運転制御性試験装置を製作して試験を行う計画があり,その結果を用いて今後検証を行う。以上より,軽水炉の特長が強いコードを将来型高温ガス炉の安全解析コードとして再構築し,Conan-GTHTRコードと名付けた。
本報では,HTTRの試験・運転結果を用いて,Conan-GTHTRコードの高温ガス炉解析への適用性に関し,検討した結果について述べる。
なお,本件は文部科学省から原研への委託により実施している電源特会「核熱利用システム技術開発」の「高温発電システム」の内容に関するものである。

著者関連情報
© by the Atomic Energy Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top