大気環境学会誌
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原著
首都圏小規模森林生態系におけるスギとコナラの酸緩衝能と無機態窒素の流出過程
関 圭祐大河内 博原 宏
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2010 年 45 巻 1 号 p. 32-42

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抄録

生物多様性,生態系保全の観点から里山が見直されている.都市近郊の里山は大気汚染の影響を強く受けていることが予測されるが,その実態は明らかになっていない.本研究では,都市近郊の里山 (小規模森林生態系) に対する大気汚染の影響評価を行い,里山が有する環境浄化能,特に酸緩衝作用と無機態窒素の低減に果たす役割の解明を目的とした.2007年6月から2008年6月にかけて東京都西部に位置する東京農工大学FM多摩丘陵 (12 ha) で林外雨,林内雨(スギ,コナラ),土壌溶液(コナラ,10 - 100 cm)の採取および分析を行った.林外雨,林内雨(スギ,コナラ)の体積加重平均pHは4.64,5.35,5.57であり,林内雨のpHは林外雨より高く樹冠における酸緩衝作用を示した.また,樹冠の酸緩衝能はスギよりもコナラの方が大きかった. Na+を大気沈着の指標として樹冠交換モデルにより,スギおよびコナラ樹冠へのK+,Mg2+,Ca2+の乾性沈着量を見積もった.その結果,林内沈着に占める乾性沈着の割合は両樹種ともに明瞭な季節変化は見られないが,葉面積指数などの違いを反映して研究期間を通じてコナラに比べてスギで高い割合を占めた.土壌溶液のpHは表層(10 cm)の5.93から深部にむけて上昇し,最深部(100 cm)では6.32であった.土壌溶液では,林内雨に比べてCa2+,Mg2+が増加していることから,これらの交換性塩基が主要な酸緩衝機構であると考えられる.また,土壌溶液中ののCl-を林内沈着の指標として土壌溶液中の無機態窒素の動態を調べたところ,大気からの流入量および流出量がほぼ同じ量であり,窒素飽和の進行が示唆された.

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© 2010 社団法人 大気環境学会
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