大気環境学会誌
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研究論文(技術調査報告)
北海道のバックグラウンド地域における粒子状物質の長期変動
大塚 英幸 秋山 雅行向井 人史橋本 茂笹川 基樹
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2021 年 56 巻 4 号 p. 69-81

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抄録

北海道の、バックグラウンドとしての大気汚染の推移を長期的に調べるため、局地的な人為汚染等の影響が少ないと考えられる根室市落石及び利尻において、22年間(1997–2018年)の粒子状物質(SPM及びPM2.5)とその成分及び全硝酸(ガス状硝酸を含む)の観測を行った。長期トレンドとして、2009年以降にSbなど人為起源の有害微量元素やAlなど土壌由来成分、非海塩由来硫酸イオン(Ex-SO42−)の減少傾向が見られた。これは長距離輸送される汚染等の変化と対応していると考えられ、近年の中国におけるPMやSO2排出量の減少傾向と矛盾しない。一方、全硝酸やOCについては明確な長期減少傾向は見られなかった。中国国内のNOxの排出量削減が進んでいないのに加え、大陸におけるバイオマス燃焼による発生が影響している可能性がある。非土壌由来V(V-sV)は落石で増加が見られた。粒子状物質の季節別の変動傾向としては、3–4月及び10–11月が特に高くなっていた。成分の中では、AlやFeなどの土壌に多く含まれる元素や人為汚染が起源である多くの元素は、3–4月及び11月に高い濃度を示した。また人為汚染起源の中でもSb、Bi、Tlは11月が特に高い濃度であった。多くの人為起源元素は利尻の方が落石よりも高濃度であり、大陸からの越境影響が強いことが示唆された。一方、生物起源であるメタンスルホン酸(MSA)及び船舶起源と考えられるV-sVは6–7月を中心とした夏に濃度が上昇し、この傾向は太平洋に面した落石において顕著であり日本海側の利尻と異なる特徴を示した。

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