大気環境学会誌
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総説
硫黄同位体比観測による大気汚染物質の越境輸送に関する研究
大泉 毅
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2022 年 57 巻 1 号 p. 15-23

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抄録

アジア大陸からの大量の大気汚染物質の排出は、我が国の日本海側地域において越境大気汚染を引き起こした。本稿では、アジア大陸の風下地域、すなわち、日本海側に位置する長岡観測所における硫酸沈着を評価した。我々は長岡観測所で28年間、降水による硫酸沈着量とその硫黄同位体比、また、発生源と周辺地域で使用されている石炭と石油の硫黄同位体比を測定してきた。降水中の非海塩硫酸イオン(nss-SO42−)の硫黄同位体比(δ34Snss)は0.0から+6.2‰の範囲にあった。観測所の周辺発生源と中国の石炭硫黄の同位体比は、それぞれ負の値と正の値を示した。研究期間中の非海塩硫酸の沈着に関して、いくつかの統計的に有意な傾向が観測された。1980年代半ば以降のnss-SO42−沈着量の減少は、期間中に比較的低いδ34Snss値を示したことから、ローカルな人為的SO2排出量の減少によって引き起こされたと考えられた。1990年代の終わりから2000年代の後半にかけてのnss-SO42−沈着量の増加は、δ34Snss値がこの期間に上昇し、冬の値が中国の石炭硫黄の平均値に近づいたころから、中国のSO2排出量の増加が原因であると解釈された。2000年代半ばからのnss-SO42−沈着量の減少傾向は、期間中のδ34Snss値の低下から判断すると、中国のSO2排出量の減少の影響を受けた可能性がある。物質収支計算によると、1990年代には中国での石炭燃焼によって放出された硫黄が長岡の年間総硫黄沈着量の約40%を占め、2000年代半ばにはその寄与が最大60%に上昇したことを示した。そのピーク以降、排出量の変化に調和して中国からの寄与は減少に転じた。

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