2025 年 60 巻 3 号 p. 31-46
領域化学輸送モデルCMAQの大気質シミュレーションが抱える主な不確実性要因として、その入力値である排出インベントリの不確実性が指摘されている。本研究では排出インベントリを用いない大気質シミュレーション手法により、CMAQの不確実性の解明に有用な知見を得ることを目的とした。東京区内の実測VOC大気濃度を用いて、大気質のボックスモデルシミュレーションを行ったところ、オゾン濃度の再現性は良好であり、不確実性の要因分析に有用なモデルと示唆された。そしてボックスモデルによるオゾン濃度の再現結果から、CMAQのオゾン濃度過大評価に対しては、バックグラウンド地域のオゾン濃度の再現精度が影響要因と考えられた。また東京区内の地点のVOC排出量を推定したところ、CMAQによるVOC大気濃度の過小評価に対しては、排出インベントリにおける芳香族を除くVOCの過小評価が示唆された。東京区内の地点において、高濃度オゾンに対する各VOCの寄与を解析したところ、ホルムアルデヒドが顕著な寄与を示し、そのホルムアルデヒドの発生には直接排出と二次生成が同程度の寄与を持つと推定された。ホルムアルデヒドの二次生成に寄与が大きいVOCを探索し、さらにホルムアルデヒドの削減効果を推定したところ、一定のオゾン低減が認められた。こうした結果から、高濃度オゾンを回避する上で、ホルムアルデヒド原因物質の削減が重要であると示された。