2025 年 60 巻 3 号 p. 21-30
宇宙からの地球観測データは今や一般市民にも馴染み深く、天気予報や台風の進路予測など日々の市民生活に大きく役立っている。しかしながら、大気組成成分の衛星観測、つまり大気中に存在する化学物質を宇宙から観測することは、大気汚染や気候変動の監視に役立ち、それにより地球環境保全に貢献している、と理解していても、それがどのような仕組みで人類に有益化かを体系的に理解している人はおそらく少ない。これは、地球環境問題においては、衛星データが生活の利便性と直接は結びつかず、まずは政策を介しているからである。そこで本稿では、オゾンやPM2.5の生成のもととなる窒素酸化物の衛星観測を中心に、大気汚染の観測における衛星観測と地上観測の相補性を議論し、日本が2025年度に打ち上げる予定のGOSAT-GW(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle)衛星にも触れ、最新の衛星観測が大気汚染の環境政策に果たせる独自の役割を述べる。