抄録
複雑な道路構造や建物の密集する市街地にも適用可能な自動車排出ガスの拡散予測手法の開発を目的として, 有限差分法を用いた数値解モデルを構築した。このモデルは建物や道路構造物など気流に影響する障害物の存在を境界条件として, 混合距離モデルで乱流粘性を表現して風速場を解き, ついで得られた風速場のもとで汚染物質の移流拡散を解く2段階からなる。風速場の数値解法として, Semi-Implicit Method for Pressure Linked Equations (SIMPLE) 法とその変形法であるSIMPLER法とSIMPLEST法, およびSIMPLER法をもとに新たに作成したより簡便なアルゴリズム (簡便法) を適用した。4種の算法を比較した結果, 簡便法以外は計算初期に発散しやすく, 初期段階を簡便法で計算した後に各算法に切り替える方法が最も高速であった。簡便法はそれ単独で用いた場合でも, 計算速度ではやや劣るが格子数や境界条件が変化しても安定して収束解を得られる利点がある。モデルの適用の第1段階として, 道路軸方向の現象の一様性を仮定して道路からの距離方向と鉛直方向のみを扱う2次元直交風モデルを作成した。大阪府下で行われたトレーサーガス拡散実験のうち, 平坦地および高層ビル街の2地区についての実験結果との比較により, 2次元直交風モデルの検証を行った。高層ビル街に生じるストリートキャニオン現象の再現を含め, 両地区ともにモデルによる計算結果は実測された濃度分布とよい一致をみた。