大気環境学会誌
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森林地域に沈着する二次生成粒子の化学形態評価
下原 孝章大石 興弘村野 健太郎
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1995 年 30 巻 3 号 p. 169-179

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抄録
福岡県南部郊外の標高約310mの森林地域 (山頂約310m) において, 乾性沈着現象を調査した。調査対象地域の標高約100m以上の斜面ではスギの先枯れ現象が観察されている。この森林の標高約40m, 180m, 230m地点に, 透過型電子顕微鏡用のメッシュ上にニトロン薄膜, カーボン薄膜 (曝露後, BaCl2を蒸着), カーボン薄膜 (曝露後, AgNO3を蒸着), 銅薄膜を蒸着した薄膜類および銅を蒸着したガラス板 (銅ガラス板) を1日間毎に曝露した。また, 標高約230m地点で, 大気をフィルターに吸引することにより粒子状物質とガスの測定を実施した。
その結果, 以下のことが明らかになった。山頂付近に曝露した銅ガラス板は硝酸性粒子の沈着により強く腐食された。電子顕微鏡下の詳細な観察から, 銅薄膜上には強い腐食スポットが観察された。一方, 麓に曝露した薄膜上にも硝酸性粒子の沈着は認められたが, 銅ガラス板上の腐食は弱く, 電子顕微鏡下の銅薄膜上の腐食スポットも弱かった。同様の沈着, 腐食現象は近傍の標高約920mの森林でも観察された。この期間, 特に, 山頂でのNH3濃度は地上と比較し極めて低濃度であった。
以上の結果から, 森林山頂付近に沈着した硝酸性粒子の化学形態は, 麓付近に沈着した硝酸性粒子のそれとは異なっていることが考えられた。すなわち, 山頂付近に沈着した粒子は, 主に硝酸酸性粒子として安定に存在し, 麓に沈着した粒子はNH4NO3やNaNO3のような中性粒子であることが推定された。これらの現象は, 標高約310m, 920mの両森林で共に観察された。
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