大気環境学会誌
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静岡市清水区におけるウメノキゴケの長期モニタリングと大気汚染の変遷
大村 嘉人河地 正伸太田良 和弘杉山 恵一
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2008 年 43 巻 1 号 p. 47-54

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抄録

地衣類ウメノキゴケの大気汚染に対する指標性は, 1970年代前半のSO2汚染が深刻だった時代に見出された。しかし, 1980年頃までに都市部でSO2汚染が大幅に改善され, 相対的に自動車排出ガス由来の大気汚染が問題化したことに対して, ウメノキゴケがどのような動態を示してきたのかついては, 詳しいことが分かっていない。筆者らは, 静岡市清水区の56地点の墓地において19721978, 1994, 2003年にウメノキゴケの分布調査を実施し, 本種の分布変化と大気汚染との関係について調べ, 次のことを明らかにした。1) ウメノキゴケは1972年以降のSO2汚染の改善に伴って, 6年以内に分布が回復してきた。2) 東名高速道路および国道1号線が交差する地域付近において, ウメノキゴケが1978年に消滅し始め, 1994, 2003年と国道1号線に沿って空白域が拡大していた。この空白域に近い大気測定局ではNO, NO2, NOx濃度が高くなっていたことから, ウメノキゴケの消滅と自動車排出ガスや交通渋滞による大気環境の変化との関連が指摘された。しかし, 調査地域内のウメノキゴケの分布とNO, NO2, NOxとの関連あるいはSO2, SPM, Oxとの関連は見出されなかった。3) ウメノキゴケの分布変化から, 2003年の調査地域は, 国道1号線沿いの空白域のほかに, 清水区役所周辺の移行帯, 郊外の通常帯に区分された。これらは大気汚染や乾燥化などの大気環境の違いを反映していることが考えられる。ウメノキゴケの分布変化は, SO2汚染とその改善, 道路開通や交通量の増加に伴う大気環境の変化を反映していることから, 都市部における大気汚染の監視には, 本種による長期モニタリングを取り入れることが重要であると考える。

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