抄録
本稿では,看護の質や専門性を高めるために,看護者の人間観に関して哲学的な視点から考察を行った。これまで看護学は,人間を「一個の全体的な存在」として捉えるよう努力してきたが,科学的方法に依拠した看護実践の場においては困難な状況が認められた。そこで,哲学者ハイデガーの実存論を手掛かりに「人間」についての理解を深めるための考察を進めたが,彼が指摘する西洋形而上学の「存在の忘却」により,科学のみならず哲学までもが,固有性や特殊性,時間性を本質とする「実存」を真に問題化できなくなってしまっている現状が示された。われわれ看護者が患者を「一個の全体的な存在」として捉えることが困難であることの根底には,このような問題が日常性に潜んでいることが考えられるが,われわれ看護者自身が「存在忘却」を忘却しないためにも,それぞれの看護者が哲学の視点をもち,看護や人間に関する探求を続けていくことの必要性を確認した。