抄録
58歳の男性において,健診の際,超音波像で胆嚢壁の全周性肥厚が描出された.まず慢性胆嚢炎が推定されたが,自覚症状はなく,胆嚢炎の既往歴もなく,胆石もみとめられない.胆嚢癌をも考慮する必要があろう.規則的でないにせよ,経時的に反復された超音波像において壁肥厚の増幅が認められた. はじめて壁肥厚を指摘されてからの6 カ月間は比較的緩徐な進展である.6カ月を終わる頃に腫瘍マーカーCA 19-9が基準値を僅かに超えた.ひきつづいての3ヵ月間の肥厚の増幅は急速であり,胆嚢内腔は失われていた.内部充実型胆嚢癌の成立を考えざるをえなかった.同時に胆嚢周囲の肝右葉への浸潤転移を考えざるをえない像も描出された.この時にはCA 19-9およびCA 50も著明に上昇していた.手術により胆嚢と肝転移が確認された.胆嚢壁の肥厚がみられれば経時的な画像診断法を反復し,その増幅がみられ,CA 19-9が基準値を超せば胆嚢癌の疑いを強める.