谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
〈特集2〉市販前から市販後まで一貫した安全性評価
ファーマコビジランスによる臨床でのリスク最小化へのチャレンジ
非臨床/トキシコロジストは、安全性医師と連携して副作用データをどう読むか
岩崎 甫
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2010 年 2010 巻 12 号 p. 118-119

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抄録

 2009年度のトキシコロジー学会の会長である岩手大学の津田修治教授は、以前私と同じ製薬会社に勤務していたことがある。いつも津田さん、津田さんと呼ばせていただいていたので、津田教授というとどうも他人行儀になってしまう。で、ここでも津田さんと呼ばせてもらおう。その当時、津田さんは非臨床部門の毒性の責任者で、私は臨床開発を担当していた。昔のことなので、詳しい経緯は忘れてしまったが、臨床開発の安全性の担当者が不在となり、この部署のまとめ役を探す必要が生じた。その時私は津田さんに、臨床開発部門に移って安全性部門を引き受けてくれないかとお願いした。当時もおそらく今も、臨床開発の経験のない方がこの部門を担当することはあまりないのではと思う。しかし、私は医薬品の安全性の評価は臨床的な観点からの判断や重篤度や頻度による分類などだけでなく、副作用が発生した時には、「なぜ?どうして?」とその発生したメカニズムを考えることが重要と考えていて、それには非臨床の立場から医薬品の卵の化合物の基礎的な情報を豊富に持っている毒性部門のスペシャリストとの共同作業が必要であろうと考えたからであった。その話しを持ちかけた時、津田さんは、「え、私は臨床的なことは判りませんよ」と予想される反応を示したけれど、何故このような話を持ちかけたかと理由を説明すると、「ふうむ、なるほどね」と理解を示してくれた。ただ、その時に岩手大学からの教職の誘いも舞い込んで、結果として大学に移ってしまったので、この話は、それで終ってしまった。その後も毒性の担当者を臨床開発に参加させようと試みたけれど、会社の合併や組織変更などがあり、実現しないまま時が過ぎていった。このように、医薬品の安全性の評価には、臨床的な眼を持っている者と、毒性の情報を咀嚼している者との共同作業が望ましい形と私は思っており、同様な考えを持っている方も少なくないのではないかと思われる。しかし現実には、そのようなシステムはどうも実際には機能していないようである。

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© 2010 安全性評価研究会
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