2010 年 2010 巻 12 号 p. 28-35
安全性薬理試験では、治療用量およびそれを上回る用量の曝露でみられる被験薬の好ましくない薬理効果を検討する。低分子化合物では、①目的とする効果とは別の予想外の「オフ・ターゲット」活性を明らかにすること、②臨床あるいは非臨床試験から推察された有害事象のより深い検討、③候補薬剤が属するその治療手段に共通した有害作用の詳細な検討などがその主な目的である(Class effect)。一方、Biologicsでは標的に対する特異性が通常極めて高く、安全性薬理試験は高度に特異的な薬剤-標的相互作用および薬力学的作用の詳細な特徴付けに一層重点が置かれる。
Biologicsに対する安全性薬理試験の考え方はICH S6ガイドラインに基本的な記載があるが、まず安全性試験コアバッテリーを検討し、その結果からその他の安全性薬理試験実施を検討する基本姿勢で、一般の化学合成品と変わりはない。ただし、biologicsの場合は、標的となる分子が明確であり、薬理作用はその標的分子を有する組織、臓器に対して発現する。従って、一般のbiologicsの毒性試験同様、その標的分子の有無あるいはその分子に対する親和性を考慮して動物種を選択する。通常、biologicsでは反応性がない動物での非特異的な作用を検討する意義には疑問がある。その分子の特性を熟慮したうえで、ケース・バイ・ケースで適切な動物種を選択して、適切な評価をすべきであろう。 なお、2006年3月イギリスでのTGN 1412の臨床試験結果を受けて、その翌年EMEAから”Guideline on requirements for first-in-human clinical trials for potential high risk medical products” というガイドラインが提示されている。ここでいう“potential high risk medical products”の定義は、作用様式および標的分子の性質が十分に解明されておらず、その薬理効果および毒性評価に適切な動物モデルがない場合と考えられる。さらに、新規作用機序または多面的な作用機構を有するような場合や免疫系に作用するもの、またagonistic効果を持つような場合もhigh riskとされている。このようなhigh riskとされる薬剤に対して、このガイドラインには、ケース・バイ・ケースでコアバッテリー以外にヒト組織を用いたin vitro試験などを追加検討することを推奨している。これは、S7Bの内容と本質的に変わりはないが、さらなる慎重さを要求したものとなっている。
本稿では、biologicsの安全性薬理試験について、最近承認されたbiologicsの事例も示しながらまとめていきたい。