谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー1 心血管系安全性評価
1-7 心毒性関連の非臨床データの着目点
熊谷 雄治
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2016 年 2016 巻 18 号 p. 38-40

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抄録

 薬物療法の上で心血管系に関する有害反応は患者の予後に直接関連するものから、短期的には明らかでないが長期的にみた予後に影響を及ぼすものまで幅広く、患者の状態に応じた薬剤選択の上で極めて重要な問題である。新薬開発においても、心臓安全性は重要視されているが、現在のところ、その興味の多くは致死性不整脈に関連したQT延長に関するものである。QT延長に関してはICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use) S7Bで非臨床試験、E14で臨床試験について記載されており、これらのガイドラインに従った開発が行われてきた。このアプローチに対して毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの、一定の成果を挙げてきたことは評価されている。現在、新たなパラダイムに基づいた安全性評価の枠組みが提唱されており、要求される非臨床試験の種類も大きく変わると思われる。その一方で、薬理作用としての心筋障害等は毒性試験から予想することがある程度可能であり、ヒトへの外挿性は高いものと思われる。またこれ以外にも、心拍、血圧、自律神経系への作用は、おそらく患者の長期的な予後に関連すると思われ、この点についても非臨床試験の段階から注意を要する。

 非臨床試験の所見は臨床試験を計画する上で極めて重要であるが、その情報源となる治験薬概要書の記載は当該分野の専門家が事実を淡々と述べているものに過ぎず、臨床家にとっては理解が難しいことが多く、ある意味、通訳が必要な程度である。そのためか、製薬企業で安全性情報を担当している医師すら、概要書の毒性部分は重要視していないということをある研究会で見聞きし驚愕したことがある。本稿ではこれらの点をふまえ、臨床試験において担当医師が非臨床試験のどのような部分に注目しているか、どのような情報を必要としているかについても触れる。

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© 2016 安全性評価研究会
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