谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
後進へ伝えたいこと
毒性学の教育・研究を振り返って
吉田 武美
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2016 年 2016 巻 18 号 p. 83-89

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抄録

 安全性評価研究会編集企画委員会より、毒性質問箱への執筆依頼を受けました。いささか重い課題ですが、ここまでの教育・研究の流れや学会活動等の関わりで経験したこと、感じたことを振り返りながら、「伝えたいこと」としての任を果たします。

 安全性評価研究会の会員諸氏は、毒性研究の中心的役割を果たしており、また、数多くの先達が指導者として本研究会の毒性の研究・技術を伝えてきています。このことが、本研究会の大きな発展につながり、毒性を語り、安全性を確保することにつながっていることを誇りとするとともに後進の育成を忘れてはならないことは言うまでもありません。

 本研究会の根源的な理念と目的は、医薬品開発や化学物質の応用開発において、これらの物質のヒトや動物の生体、時に生態系にもたらす好ましくない毒性という負の側面を解明し、そして安全性確保のための方策を見出していくことであろう。そのために従来型の毒性学に留まることなく、進化する幅広い科学技術の成果を取り入れ、開発化合物や化学物質の毒性をいかに効率よく、感度良く、精度よく見つけ出し、安全性を担保して、毒性を科学していく心を忘れることなく、実践していかなくてならないでしょう。その過程ではまた、研究者・技術者としての職業上のディレンマに陥ることもあるでしょう。 そのとき、研究者・技術者としての倫理や社会の倫理を問いつつ、自身の人生観や社会観さらには世界観も含めて判断することがあるかも知れません。そのようなことに対応できる自分作りを持続的に進めていくことが現代に生きる我々の社会的責任であろうと思っています。科学や技術は誰のために、何のためにあるのかを常に考えておくべきでしょう。

 2015年は大村 智先生とW.キャンベル先生のイベルメクチン、中国トゥ・ヨウヨウ氏のアルテミシニンの感染症治療薬の発見や開発にノーベル生理学・医学賞が授与されました。医薬品開発における毒性・安全性を担保する部門の研究者・技術者にとっても、薬が世に出るまでの長い道のりを考えると、感慨無量であったことでしょう。まさに実学の地位が高く評価されたことになるかと思います。

 口幅ったいことも書くことがあるかも知れませんが、多くは反省からの伝えたいことになるでしょう。

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