抄録
「ヒト肝細胞キメラマウス」と称されるマウスが生命科学研究に利用され始めてから既に10年以上が経過した。当社が生産する「PXBマウス」は、「ヒト肝細胞キメラマウス」の草分けの1つとして、多くの生命科学研究に利用されている。PXBマウスの主要な用途は創薬研究であり、現在までの実績においてはC型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎の感染予防や治療薬開発への利用頻度が最も多い。一方ここ数年、薬物動態研究や安全性研究に利用される頻度が飛躍的に増えており、その傾向は今後も持続・増加することが期待されている。
PXBマウスが薬物動態研究や安全性研究に利用される頻度が増えている背景は、このモデル動物がヒト肝細胞を持ち、ヒト肝細胞が関わる薬物動態や安全性の研究課題に対して有意な結果を生み出していることにある。特に薬物動態分野においては、Miyamoto1)らにより29種類の化合物を対象に、これらの化合物のヒトでのPKパラメーターの実測値に対してPXBマウス、サル及びラットで得られたPKパラメーターからsingle-species allometric scalingを用いて予測した値を比較した結果、PXBマウスのものが最も一致率が高かったこと、安全性分野においてはFoster2)らによって、Troglitazoneによるヒト特異的肝毒性発生メカニズムを示唆する研究成果がPXBマウスの利用によって示されたことは代表的な研究成果である。
しかしながら、PXBマウスだけでなくヒト肝細胞キメラマウス全体を対象としても、薬物動態や安全性の研究において、これらのモデル動物を利用することの有用性を示す実例は未だ限られている。
今回は、PXBマウスを利用した安全性研究について、いくつかの実例を紹介すると共に同研究をサポートするためのいくつかのツールについて紹介する。