谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
マイクロサンプリング
1.マイクロサンプリングの毒性評価への利用について
斎藤 嘉朗田中 庸一齊藤 公亮
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2021 年 2021 巻 23 号 p. 32-36

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抄録

 非臨床試験におけるトキシコキネティクス(TK)試験は、投薬量と全身曝露量との関連性検討、被験薬の濃度及び分布と各臓器における毒性所見との関連性検討、さらにはヒトにおける副作用発現のリスクを推定する上で、重要な意義を有する。TK試験に関する行政指針としては、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」)において、ICH S3Aガイドラインが1994年に合意され、本邦では1996(平成8)年に「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」1)として発出されている。

 従来、TK評価を行うにあたり1時点当たり200 μL程度という多くの採血量が必要であり、血液量が少ないげっ歯類では、採血による毒性影響が懸念されることから、毒性評価を行う主試験群の動物以外に、TK評価を行う採血用のサテライト動物群の設定が必要であった。しかし、欧米に加え、本邦でも「動物の愛護及び管理に関する法律」において、「できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること等により動物を適切に利用することに配慮するものとする。」と規定される等、動物福祉に配慮した動物実験が求められている。さらには質量分析装置等の機器分析における感度の上昇により、少量の血液試料で、薬物濃度の測定が可能となってきた。すなわち、マイクロサンプリングと呼ばれる少量の採血を行うことにより、サテライト動物数を減らすこと、さらには主試験群動物でのTK評価を行えば毒性評価値と曝露量を個体ごとに評価しうることから、マイクロサンプリングをTK評価に導入する動きが高まりをみせた。

 以上の背景から、ICHにおいて2014年6月に、S3Aガイドラインにおけるマイクロサンプリングに関するQ&A作成が決定された。同年10月にコンセプトペーパーとビジネスプランが承認され、さらに同年12月に日本がラポーターを務めるImplementation working groupが発足した。1年半の議論の後、2016年5月にStep 2b案が公開され、各極でパブリックコメントを募集した。世界から寄せられた計189のコメントを基にQ&A案の修正を行い、2017年11月にICH総会にて承認され、最終化された。同内容は、日本語訳の上、2019年3月に厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課からの事務連絡「「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」におけるマイクロサンプリング手法の利用に関する質疑応答集(Q&A)」2)として発出された。同Q&Aは、2021年3月現在、米国、欧州、カナダ、シンガポール、スイス、中国、台湾でも、国内(または域内)向けに発出されている。

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© 2021 安全性評価研究会
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